古くから今もなお受け継がれている日本の風習は、様々あります。
例えば、お正月のしめ飾りやお盆の迎え火・送り火、冬至のゆず湯や冬至かぼちゃなどは、普段の生活に浸透している風習かと思います。
ただ、昔は盛んに行われていた風習であっても、時の流れとともに、そうでは無くなってきているものがある事も確かです。
「針供養」も、そんな風習の1つです。
針供養とは?
針供養は、読んで字のごとく針を供養する行事です。
針仕事は、昔の女性にとって大切な仕事の1つでした。
加えて、縫い針は、生活に欠かすことの出来ない道具でもありました。
だからこそ、針供養の日ばかりは針仕事をお休みにして、お世話になった針に感謝し供養したのです。
また、その事と併せて、裁縫の上達をも祈っていました。
針供養の方法
針供養の方法は、地域によって様々のようです。
過去においては、「針を豆腐やこんにゃくのような柔らかいものに刺し近くの寺社に奉納する」という方法が一般的でした。
各家庭で針供養が行われていた時代もあり、その場合は、針をさした豆腐やこんにゃくを川や海へ流したり、土の中に埋めたりなどして供養するということが行われていました。
現在では、針供養が行われる寺社に針を持参して奉納し、供養していただくという形に変わっています。
針を柔らかいものに刺すのはなぜ?
ところで、針供養の時に豆腐など柔らかいものに針を刺すのは、なぜかご存じですか?
その理由は、これまで生地などの硬いものを刺してきた針に対して、最後は柔らかい所で楽に休んで成仏してくださいという気持ちからきています。
主に豆腐やこんにゃく、もちなどに針を刺しますが、これらの食べ物はお供物としての意味も持ち合わせています。
針供養の由来
さて、針供養がどのようなものか解ったところで、今度はその由来を紐解いていきましょう。
針供養は、そもそも事八日の行事のひとつとして行われてきたものになります。
事八日とは?
古来日本では、旧暦12月8日と2月8日を併せて、事八日と呼んでおり、事を始めたり納めたりする大切な日とされていました。
それぞれを、事始めの日・事納めの日としていましたが、両日共にどちらの日にもなっていました。
なんだか紛らわしいですが、
- 12月8日が事始めの日なら2月8日は事納めの日
- 2月8日が事始めの日なら12月8日が事納めの日
だったのです。
このような事が起こりえたのは、当時の暮らしと深い関係があります。
事始めの日と事納めの日の考え方
事八日の「事」は、神事や祭事を表す言葉です。
そして、事八日の日は、本来、事の神を祀るための物忌みの日でした。
※物忌み=祭事において神様を迎えるために、一定期間飲食を慎み、心身を清めること。
ここで、なんとなぁ~く、想像がつきませんか?
事の神を祀る祭りが、年に2回あったんじゃないか?って!
やっぱり!!と、思ったあなた!
さすがです^ ^
その昔、事の神を祀る祭りは年に2回あり、それぞれ「年神様」と「田の神様」を祀っていました。
どちらの神様を祭るかで、事始めの日と事納めの日が入れ替わっていたのです。
◎年神様を祭る場合
正月行事の準備を始めるのが12月8日で、すべての行事を終え、後片付けを済ませるのが2月8日。
◎田の神様を祭る場合
田植えの準備を始めるのが2月8日で、農作業がすべて終わるのが12月8日。
という具合です。
中国と日本の風習の融合
日本には、古くからの民間風習と中国から伝わった風習が交わって、独自の風習となったものがいくつもあります。
実は、針供養もそんな風習のひとつです。
江戸時代のこと、「社日に針線を止む」という、中国の古い慣わしが日本に伝わりました。
※社日=生まれた土地の守護神を守る日
針線=針と糸・裁縫・針仕事
この慣わしに、事八日の行事と淡島信仰が結びついて針供養が行われるようになったと言われています。
淡島信仰について
最初に、淡島と淡路島は別物だという事を断っておきます。
ご存知でしたらすみませんm(_ _)m
淡島信仰は、和歌山市加太町ににある淡島神社を中心とするものですが、祭神に関してはいくつかの説があります。
淡島神社にも祀られており多く語られているのが、少彦名命説です。
少彦名命は医療に長けた神様なのですが、裁縫の道を初めて伝えた神様でもあることから、針の労をねぎらい裁縫の上達を祈る針供養が行われているというものになります。
ここで、全ての説を紹介することは割愛させていただきますが、もう1つだけ紹介いたします。
それは、祭神を「婆利才女」とし、婆利が針に通じることから針仕事の上達を祈るようになったというものです。
※婆利才女:ばりさいじょとも読まれます。
この婆利才女ですが、調べていくと「頗梨采女」という同じ読みでも別の女性が出てきて、どっちが本物?ということにもなりかねないところですが別人のようです。
ただ、双方ともに女性であり、婦人科系の病気に神験があったというところは共通しているようでした。
今では各地の寺社で行われている針供養ですが、その起源は和歌山市の淡嶋神社とされています。
針供養が行われる日と主な寺社
変わりますが、針供養の行事はいつ行われるのでしょうか?
きっと、ここまで読み進めてくれたあなたなら、大体の察しはついているかと思います。
これも、地域によって様々で、12月8日または2月8日、もしくはその両日に行われています。
一般的には、関西以西が12月8日、東海から東北は2月8日に行うことが多いようです。
また、針供養が行われる主な寺社は
- 淡島神社(粟島神社)と
- 淡島神を祭る堂(淡島堂・粟島堂)がある寺院
になります。
開催日ごとに、いくつかの寺社をあげておきますね^ ^
◎2月8日開催
淡嶋神社 (和歌山市:073-459-0043)
淡島神社 (北九州市:093-371-8428)
浅草寺 (東京都:03-3842-0181)
荏柄天神社(鎌倉市:0467-25-1772)
太平寺 (大阪市:06-6779-9133)
◎12月8日開催
幡枝八幡宮 (京都市:075-791-3576)
長浜八幡宮 (長浜市:0749-62-0481)
武信稲荷神社(京都市:075-841-3023)
◎12月8日、2月8日の両日開催
虚空蔵法輪寺(京都市:075-862-0013)
天神社 (徳島市:088-622-9962)
最後に・・・
針供養は、お世話になった針に感謝し供養する行事です。
時代の移り変わりと共に、どこのご家庭でも行うという事は無くなりましたが、今も、洋裁や和裁を仕事にしている人の間で受け継がれています。
ただ・・・
針供養に見られるような、普段使っている物にも感謝するという日本人の心は、時代が移り変わっても受け継がれていって欲しいと願うところです。
≪参考≫
年中行事 / 淡島神社
針供養 / 東白川村公式サイト
針供養。二月八日 / お話歳時記
針供養(ハリクヨウ) / 房総のむら
針供養 / 日々是活き生き-暮らし歳時記- / 私の根っこプロジェクト
針供養とは~なぜ豆腐に刺すの? / AllAbout
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